大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)71号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決の取消事由の存否について検討する。

1 (引用例に記載された技術内容について)

(一) まず、スポツト溶接とプロジエクシヨン溶接とについてみるに、成立に争いのない甲第五号証、第六号証及び弁論の全趣旨によると、スポツト溶接及びプロジエクシヨン溶接は、いずれも抵抗溶接の一種であり、プロジエクシヨン溶接は点溶接の変形であると考えられるものではあるが、スポツト溶接(点溶接)は、重ね合せた金属部材を適当に成形した電極の先端ではさみ、比較的狭い部分に電流を集中して局部的に加熱し、同時に電極で加圧して行うものであつて、適切な溶接を得るためには、通電時間、電流密度、加圧力及び時間を適正に選ぶことが不可欠であるのに対し、プロジエクシヨン溶接(突起溶接)は、溶接すべき金属部材の一方の接合個所に形づくられた突起部を接触させて平面電極により加圧しながら、この突起部にのみ電流を通じて、抵抗熱の発生を比較的小さい特定の部分に限定するようにして行うものであつて、右突起部をつくる手数を要する反面、一度に多数の溶接ができ、突起がしやく熱軟化して崩れると、電流は他部へ分散するので、過熱を避けることができ、板厚が著しく異なつたものや材質の異なつた金属の溶接にも用いられ、両者は、溶接方法として別異のものであることが認められる。

なお、成立に争いのない甲第三号証(本願考案の補正明細書)によれば、「本案は……これを使用する場合には、所望の形状に裁断した鈑体(A)(B)を上下より挾持するよう押当て配置し、当該鈑体(A)(B)の外側から溶接用突起上を、点溶接機(C)(C´)によつて挾持加圧し、同時に大電流を通す」とされていることが認められる。この記載上、本願考案において、点溶接機が用いられているけれども、突起溶接は、一度に多数の溶接ができる点を措いても、上述のとおり、なお、過熱を避けることができ、板厚が著しく異なつたものや、材質の異なつた金属相互の溶接にも用いられる等の利点があり、これらは、溶接される部材の一方に突起部を形成し、これを溶接自体に用いるものであるから、点溶接機を使用していても、溶接用突起上を挾持加圧して溶接する本願考案は、点溶接ではなく、突起溶接を行つているものというべきである。

(二) ところで、当事者間に争いのない請求の原因三の事実によれば、審決は、引用例には、「外側に突出し内側に凹所を有する抵抗溶接用突起を設けたものが開示されている。」と認定しているところ、被告は、本訴において、審決が引用例から引用した技術はプロジエクシヨン溶接であるとしているのであるから、審決のいう右「抵抗溶接用突起」とは、プロジエクシヨン溶接のための突起にほかならない。

(三) そこで、引用例について更に検討するに、成立に争いのない甲第四号証によると、引用例には、従来のスポツト溶接においては、位置決めに時間を要し、かつ、位置決め精度が低下すること及び接合部の強度が不均一になるなどの不都合があつたことに鑑み、本発明(引用例に記載の発明。以下同じ。)は、このような不都合を除去するものであるとしたうえ、その発明の具体的な説明として、「本発明は、……二個の接合体の対向位置に凸部と凹部を形成し、凸部を凹部に挿入して二個の接合体を位置決めした後、上記凸部と凹部とをスポツト溶接して二個の接合体を固着させるものである。以下、本発明を多翼形送風機の羽根車に実施した場合を示す第二図について説明する。同図において5、6は心板及び側板にして、それぞれの対向面には割出器にて位置決めされた凹部5′、6′をプレスによつて形成している。7は羽根にして、両側面には外方よりプレスによつて凸部7′を形成している。……上記の構成であるから羽根7の両側面の凸部7′をそれぞれ5′、6′内に挿入することによつて、心板5および側板6と羽根7との取付位置が決定される。次いで、上記凸部7′を凹部5′、6′内に挿入した状態で、スポツト溶接を行うことによつて羽根7の両側面は心板5および側板6に固着される。」との記載があり、右第二図(別紙図面(〔編註〕省略)(2)に同じ)には、右溶接方法を示す断面図が示されている。

このように、引用例には、その溶接がスポツト溶接である旨明記されているばかりでなく、引用例における二個の接合体の一方に形成された凸部は、他方の接合体の対向位置に形成された凹部に挿入されることにより、専ら接合体相互の位置決めを行うためのものであり、しかも、前記第二図は説明図であるため、これのみから、凸部及び凹部の正確な相互の形状を断定し難いが、明細書における前記認定の記載と併せ考えると、凸部と凹部との接触は、いわゆる面接触であつて、点接触であると解するのは相当ではない。ところで、前記認定の記載によると、引用例のものは、接合体の凸部を他方の接合体の凹部に挿入したその箇所に溶接が行われるものであるところ、同所が前記のとおり面接触であつて点接触でないことからすると、この凸部の先端に圧力と電流の集中はおこらず、そこで行われる溶接の領域は、専ら電極の先端の形状によつて決せられることとなる。そうしてみると、引用例に記載されている溶接は、スポツト溶接であつて、プロジエクシヨン溶接ではなく、引用例を検討しても、他にプロジエクシヨン溶接の技術が開示されていると認むべき記載は見当らない。したがつて、審決は、引用例に記載された技術内容の認定を誤つたものというべきである。

2 本願考案と引用例に記載の技術内容との相違点について

(一) 当事者間に争いのない本願考案の要旨によると、本願考案は、原告が主張するとおり、

(1) 溶接用突起は、鉄骨部材の上下接続面における折曲部近傍に位置する。

(2) 同突起は、上下に相対応するように配設してある。

(3) 相対応する溶接用突起は、上下接続面外側に突出し、内側に凹所を有する向きに設けられている。

との構成を必須の要件としているものである。

ところで、審決は、前述のとおり引用例には、「外側に突出し内側に凹所を有する抵抗溶接用突起を設けたもの」が記載されているとしたのみであり、また、前掲甲第四号証を検討しても、引用例には、本願考案の構成である溶接用「継手」に係る右(1)及び(2)の点に関する記載はない。したがつて、右の二点が引用例に記載されていないという意味において本願考案と引用例に記載の技術とは相違しているところ、審決は、これらの相違点について摘示も論及もしていない。また、右の(3)の点についてみるに、前掲甲第四号証によると、引用例のものにおいては、一方の接合体に形成される凸部は、他方の接合体に形成される凹部に位置決めのため挿入されるものであるから、当然、一方の接合体の接続外面に突出して設けられ、かつ、右凸部の裏面には凸部の形成に応じ単に凹部が形成されているのであり、他方、本願考案は、前記考案の要旨から明らかなとおり、前記(1)ないし(3)を構成要素に包含する溶接用鉄骨継手それ自体であつて、右継手に結合されるべき部材の構造ないし形状についてはその構成要素とされていないのであるから、引用例のものにおける凸部が、本願考案におけるような溶接自体のための突起ではなく、それゆえにこそ、引用例のものにおいては凸部と凹部との嵌合部にスポツト溶接が行われているとしても、溶接自体からみれば、そのスポツト溶接の部位を、事理上必然的に、右嵌合部に限定しなければならないものとは解せられず、ひいて、プロジエクシヨン溶接のための突起としての技術的認識の存することを認めるに由ないことを併せ考えると、前記(3)の点についても、本願考案は、引用例のものとは相違するというのが相当である。

(二) ところで、前掲甲第三号証によると、本願考案における前記(2)の構成は、その明細書に記載の「所望の形状に裁断した鈑体(A)、(B)を上下より挾持するよう押当て配置し、当該鈑体(A)、(B)の外側から溶接用突起上を……挾持加圧し、同時に低電圧大電流を通すだけで相対応する突起部分に大電流と圧力が集中し……相対応する上下二点が同時に溶接される。すなわち、接続しようと思つていた鈑体(A)、(B)を上下に同時多点溶接することができることになる。」との作用効果を奏する上で必須の要件であることが認められる。これに対し、引用例のものは、前記認定のとおりスポツト溶接に関するものであることを考慮すると、本願考案における右の作用効果を引用例のものに期待することはできず、また、引用例にそのような示唆があるともいえない。

そうしてみると、審決が本願考案と引用例のものとを対比するにつき、前記諸点に関する相違点を看過した点は、引用例の技術内容の認定を誤つたことと相まつて、審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。

3 以上のとおりであるから、原告のその余の主張について判断するまでもなく審決は取消しを免れない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

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